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中国共産党は1日、創建100年の式典を行う。一党支配の下で貧困国家から世界第2位の経済大国へ成長した「業績」を内外に誇示するが、党が演出する祝賀ムードは国内の一部で共有されているにすぎない。
香港での言論弾圧や少数民族への人権侵害に、国際社会は厳しい視線を投げかけている。党の100年が大躍進から文化大革命、天安門事件へと、弾圧の歴史であったことは誰もが知る。
外に向けては、東シナ海や南シナ海で力による現状変更を図っている。党創建100年を機に独裁体制を強める中国に、民主主義陣営の一角を担う隣国の日本はいかに対峙(たいじ)していくか。そのことが強く問われている。
毛氏の個人崇拝に並ぶ
中国の習近平国家主席(中国共産党総書記)は6月29日、北京の人民大会堂で演説し「永遠に党を信じ、党を愛し、党のために各自の持ち場で粘り強く必死に努力しなければならない」と全党員に強く忠誠を求めた。
28日には祝賀行事の一環として「偉大な道程」と題する歴史演劇が上演され、習氏が「新時代」を築いたと位置付けられた。「建国の父」毛沢東に並ぶ扱いで、習氏への個人崇拝に結び付ける演出だったと言っていい。
1966年から10年続いた文化大革命など毛沢東の長期独裁が引き起こした大混乱への反省から、共産党は前任の胡錦濤氏までは集団指導体制を守ってきたはずだった。だが2012年11月に党総書記の座についた習氏は、党内の対抗勢力を反腐敗の名目で続々と粛清し、長期独裁に向けた地ならしを行ってきた。
習氏の念頭には、さらに2つの「100年祝賀」があるのではないか。27年の人民解放軍創設100年と、49年の建国100年である。習氏は建国100年時に96歳となるが、その全てを最高権力者として迎えることも可能だ。
2期10年までと定められた国家主席の任期は18年の憲法改正で任期条項を撤廃させた。慣例では党総書記の座も2期10年とされるが、来年秋の党大会で「実績」を誇示して3期目に入れば、慣例は有名無実となる。習氏による独裁体制の完成である。
創建100年の節目に、習氏による強権的な独裁体制への先祖返りが明確になっている。この動きを国際社会と日本は改めて強く警戒する必要がある。
香港国家安全維持法(国安法)の施行1年となった香港では民主活動家やジャーナリストら110人以上が逮捕され、中国に批判的な論陣を張っていた「蘋果(ひんか)日報(アップルデイリー)」が発行停止に追い込まれた。自由の象徴だった香港は今や、暗黒の中で沈黙を強いられている。
新疆(しんきょう)ウイグル自治区でのウイグル人への「ジェノサイド(民族大量虐殺)」を含む少数民族への人権侵害、台湾への軍事圧力、国際法を無視した南シナ海などへの強引な海洋進出、日本や周辺国への威圧といった覇権主義も激化の一途をたどっている。
党創建100年に合わせて新設した党の最高栄誉賞「七一勲章」は、その南シナ海で活動する海上民兵や新疆ウイグル自治区で独立勢力を抑えた党幹部らが選ばれた。露骨な強権の誇示である。
日本は天安門の反省を
6月中旬に英国で開かれた先進7カ国首脳会議(G7サミット)では、自由や民主主義、法の支配という普遍的な価値観を共有する国々が、中国など専制主義の国々への対抗軸となることを確認した。菅義偉首相は「自由、人権、法の支配について中国もしっかり保障すべきだ」と述べた。
G7の一員であり、とりわけ中国の風波を直接受ける隣国の日本こそ、共産党政権の覇権を抑止する先頭に立たねばならない。
だが、立憲民主党の小沢一郎衆院議員と、河野洋平元衆院議長が「党創建100年」に祝意を表すメッセージを送ったことが中国側により明らかにされた。国会は、中国政府による人権侵害を非難する決議案の採択を見送った。
民主化を求める学生ら罪のない市民を人民解放軍が無差別に殺傷した1989年の天安門事件で日本政府は欧米諸国の対中制裁に反対し、中国の国際社会への復帰を助けることになった。
その反省を生かすべきは、今である。
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2021年7月1日付産経新聞【主張】を転載しています